STORY RECORD 09

第九話

生成

第九話 生成

幻想域 外縁。

風が、ゆっくりと戻っていた。

誰も動かない。

ただ、断片だけがそこにある。

「……つなぐ」

アオが、小さく言う。

レイの視線が鋭くなる。

「やるのか」

アオは頷く。

「全部じゃない」

「ちゃんと、選ぶ」

零乃は何も言わない。

ただ、その場にいる。

止めない。

だが——

許してもいない。

アオが、ゆっくりと断片に手を伸ばす。

今度は、迷いがない。

「……あなたは」

断片を見る。

「何を持ってるの?」

沈黙。

ほんの一瞬。

断片が、応える。

「……なまえ」

「なまえを、なくした」

アオの瞳が揺れる。

「じゃあ」

「そこから」

小さく息を吸う。

周囲に散らばる断片を見る。

欠けた記憶。

欠けた意味。

欠けた存在。

その中から——

“近いもの”を選ぶ。

レイが低く言う。

「それは推測だ」

「……うん」

「でも、繋がりはある」

アオの手が、ひとつの断片に触れる。

そして——

ゆっくりと重ねる。

接続。

その瞬間。

空気が揺れる。

断片が、震える。

「……あ」

声。

今までよりも、

はっきりした音。

「わたしは」

「——」

一瞬、言葉が途切れる。

ノイズが走る。

「▒▒▒」

アオの手が止まる。

「……違う?」

断片が、揺れる。

「ちがう」

「それは」

「わたしじゃない」

レイが言う。

「外れだ」

アオが歯を噛む。

「……もう一回」

今度は、別の断片。

より近いもの。

より似ているもの。

それを、重ねる。

接続。

今度は——

音が乱れない。

断片が、ゆっくりと形を持つ。

「……わたしは」

「ここに」

「いた」

アオの呼吸が止まる。

「……成功?」

だが。

レイの声は、低い。

「まだだ」

その瞬間。

断片の声が続く。

「ここに」

「いた」

「いる」

「いる?」

言葉が、重なる。

ズレる。

「ちがう」

「ちがう」

「でも」

「でも」

「わたしは」

空間が歪む。

整っていたはずの周囲が、

わずかに崩れる。

零乃の視線が動く。

「……始まった」

断片が、はっきりと言う。

「わたしは」

「わたしじゃない」

アオの手が震える。

「……そんな」

レイが言う。

「繋がった時点で」

一拍。

「別の存在だ」

断片が、静かに呟く。

「これで」

「いいの?」

アオは答えられない。

断片の声は、

どこか安定していた。

だが——

元とは違う。

明らかに違う。

それでも、

崩れてはいない。

存在している。

零乃が静かに言う。

「……残ったな」

アオが顔を上げる。

「え……?」

「終わらなかった」

その言葉は、

わずかに優しかった。

アオが、断片を見る。

「……これが」

「この子の、形……?」

レイは答えない。

ただ、見ている。

遠くで。

Rewriteが、静かに呟く。

「いいね」

「それでいい」

その声は、

誰にも届かない。

幻想域 内部。

ユラが、ゆっくりと立ち上がる。

「……作られた」

静譜が、大きく揺れる。

「記録じゃない」

その瞳が、鋭くなる。

「“別の存在”が」

外縁。

新しく繋がれたそれは——

静かに、そこに立っていた。