STORY RECORD 08

第八話

選択

第八話 選択

幻想域 外縁。

沈黙が続いていた。

アオは、動けないまま立ち尽くしている。

断片はそこにある。

変わらず、

消えず、

ただ——在る。

「……ごめん」

その言葉は、もう届かない。

風が揺れる。

その瞬間。

空気が、静かに変わった。

音が消える。

流れが止まる。

“存在そのもの”が、

わずかに薄くなる。

レイの視線が動く。

「……何か来る」

アオが顔を上げる。

そこにいた。

白に近い髪。

静かな瞳。

音もなく立つ存在。

幻想域の色に、わずかに馴染まない。

「……誰?」

少しだけ、間が空く。

「……零乃」

それ以上は語らない。

アオも、レイも、

その名前に覚えはない。

ただ——

“違う”と分かる。

零乃は断片を見る。

何も言わない。

ただ、近づく。

アオが一歩前に出る。

「待って、この子——」

「触るな」

小さな声。

だが、はっきりと止まる。

アオの動きが止まる。

零乃は、断片に手を伸ばす。

触れる。

——何も起きない。

断片は、そのままだった。

「……え?」

零乃はもう一度、触れる。

変化はない。

ほんの少しだけ、眉が動く。

「……」

言葉にならない沈黙。

レイが低く言う。

「干渉が通ってない」

零乃は答えない。

ただ、見ている。

断片が、わずかに揺れる。

「……けして」

その声に、空気が止まる。

アオが息を呑む。

「……今、消してって」

零乃の手が止まる。

ほんの一瞬。

「……できない」

静かな声。

アオが揺れる。

「え……?」

零乃はそれ以上、説明しない。

断片が続ける。

「おわらせて」

「もう……いい」

その声は、

どこか安らいでいた。

アオの手が、震える。

「……ねえ」

小さく言う。

「もし……」

レイが視線を向ける。

アオが続ける。

「正しい断片を繋げば」

「元に戻るかもしれない」

沈黙。

レイがすぐに言う。

「保証はない」

「分かってる」

アオは止まらない。

「でも、このままより——」

「この子が、このままなのは……違う」

零乃の視線が、ゆっくりとアオに向く。

初めて、はっきりと。

「それは、戻すことじゃない」

アオが言い返す。

「でも、可能性はある」

沈黙。

零乃は否定しない。

ただ、一言。

「選び方を間違えれば」

少し間を置く。

「戻らない」

アオの喉が鳴る。

「……それでも」

断片を見る。

「このままにするのは……違う」

断片が、かすかに揺れる。

「……つなぐ?」

アオが頷く。

「ちゃんと選ぶ」

「間違えないように」

レイが低く言う。

「それが一番危険だ」

アオは黙る。

だが、目は逸らさない。

零乃が静かに言う。

「消せないものは」

一拍。

「残るしかない」

その声は優しい。

だが——

救いではない。

アオが、小さく呟く。

「……なら」

顔を上げる。

「残す形を、選ぶ」

風が動く。

世界が、また流れ始める。

だが——

もう元には戻らない。

断片はそこにある。

消えず、

変わらず、

そして——

選ばれようとしている。

遠くで。

Rewriteが、静かにそれを見ていた。