STORY RECORD 07

第七話

再構成

第七話 再構成

幻想域 外縁。

Rewriteの気配が、ゆっくりと遠ざかっていく。

整えられた空間は、

確かに安定していた。

風は流れ、

歪みは消え、

世界は“正常”に近づいている。

だが——

「……変わってない」

アオの声が、小さく落ちる。

断片は、

そのままだった。

整えられた世界の中で、

ただそこだけが、取り残されている。

「なんで……?」

レイが静かに言う。

「整えられたからだ」

「え……?」

「構造が正しくなった分、

 不完全なものは“存在として扱われない”」

断片は、動かない。

触れられず、

干渉もされず、

ただそこに在るだけ。

アオは一歩近づく。

「でも……それじゃあ」

「このままじゃ、ずっとこの状態のままじゃない」

レイは何も言わない。

止めない。

ただ、見ている。

アオの指が、

ゆっくりと断片へ伸びる。

「少しだけなら……」

「繋げば」

その瞬間。

断片が、わずかに震えた。

「……い」

アオの動きが止まる。

「い……る」

声。

かすかに、

だが確かに。

「ここに」

アオの表情が変わる。

「……ほら」

「ちゃんと、いる」

レイの視線が鋭くなる。

「やめろ」

「え……?」

「それは、成立していない」

アオは首を振る。

「でも、喋ってる」

「繋がれば、意味になる」

そのまま、

アオの指が触れる。

触れた瞬間。

断片が、揺れる。

「なまえ」

「なまえは」

「……あった」

言葉が繋がる。

少しずつ、

形になっていく。

アオの声が震える。

「大丈夫」

「少しずつでいいから」

「戻せば——」

その瞬間。

断片が、歪む。

「ちがう」

アオが固まる。

「……え?」

断片の声が重なる。

「ちがう」

「それは」

「わたしじゃない」

空気が変わる。

さっきまで整っていたはずの流れが、

わずかに乱れる。

レイが低く言う。

「繋げるな」

「それ以上は——」

アオが手を離そうとする。

だが、遅い。

断片の声が増える。

「わたしは」

「ここに」

「いた」

「いる」

「いない」

言葉が重なり、

ズレていく。

「戻して」

「戻して」

「違う」

「違う」

「違う」

ノイズが混ざる。

「▒▒▒▒」

アオの手が震える。

「……なんで」

レイが静かに言う。

「それは復元じゃない」

アオが振り向く。

「じゃあ……何なの」

一拍の沈黙。

「再構成だ」

言葉が落ちる。

「欠けたままの方が、

 まだ元の形に近い」

「繋げば——」

レイの視線が、断片を射抜く。

「別のものになる」

断片が、静かに言う。

「やめて」

その声は、はっきりしていた。

「つながないで」

アオの呼吸が止まる。

「……」

手を離す。

断片は、

それ以上崩れない。

だが——

戻らない。

ただ、

そこに在り続ける。

アオの声が、かすれる。

「……ごめん」

レイは何も言わない。

幻想域 内部。

ユラが、ゆっくりと目を開く。

「……遅かった」

静譜が、微かに震える。

「繋いだ」

その一言だけで、十分だった。

「……始まる」

視線は、外縁へ。

そして——

アオへ向けられていた。