STORY RECORD 06

第六話

書き換える者

第六話 書き換える者

幻想域の空気が、わずかに変わっていた。

揺らぎではない。

断片でもない。

それはもっと静かな、

けれど明確な“異質”だった。

幻想域の内部。

譜守ユラは、ゆっくりと目を開く。

静譜は沈黙したまま。

本来なら維持されるべき存在にすら、触れようとしない。

まるで——

その先にある何かを、避けているように。

「……また、増えた」

観測される前の存在。

記録にも属さず、譜にも支えられないもの。

それでも消えない。

「……違う」

ユラの視線が、わずかに揺れる。

「これ……干渉されてない」

守られているわけではない。

“誰にも触れられていない”

■ 幻想域 外縁

綴目アオは、足を止める。

風が止まる。

いや、違う。

流れそのものが、

一瞬だけ“整えられた”。

「……何」

手の中の断片が、わずかに軋む。

レイの視線が、前方へ向く。

そこにいた。

黒い髪。

静かな立ち姿。

白と黒を基調に、かすかに紫と青を滲ませた存在。

幻想域の色に溶け込まないのに、

不思議と拒まれない。

「……誰?」

その人物は答えない。

ただ、足元の“世界”を見る。

断片の周囲にある、

揺らぎや歪みに手を加える。

触れない。

拾わない。

けれど——整う。

流れが戻る。

歪みが消える。

形が、わずかに良くなる。

レイが、静かに言う。

「……改変者か」

「少しだけ、整えておくね」

その声は、穏やかだった。

アオは息を呑む。

「整える……?」

黒髪の存在は、静かに続ける。

「無理に変える必要はないよ」

「でも、崩れたままでは保てないから」

「必要なぶんだけ、手を加える」

周囲は安定していく。

だが。

断片だけは、変わらない。

レイの声が、わずかに沈む。

「……届いてない」

アオの指が震える。

「え……?」

黒髪の存在は、

ようやく断片そのものを見る。

沈黙。

ほんの一瞬だけ。

「……この形」

「……やっぱり」

「触れられないまま、なんだね」

驚きはない。

ただ、知っているものをなぞる静けさ。

「……あなた、誰?」

「Rewrite」

その名が落ちた瞬間、

幻想域の各所で静かなひずみが走る。

幻想域の内部。

ユラが、ゆっくりと顔を上げる。

「……来た」

保持者でもない。

収集者でもない。

消去者でもない。

“改変者”

それは、

存在の在り方そのものへ触れる側の者。

外縁で、Rewriteは断片から視線を外す。

「改変者でも、触れられないものがある」

その言葉は、静かだった。

「それでも、いいよ」

「無理に変える必要はないから」

断片は、揺れない。

変わらない。

ただそこにある。

ユラは、静かに息を吐く。

「……最悪」

その視線は、断片ではなく——

Rewriteに向けられていた。

記録を守る者にとって。

世界の形を“変えられる存在”は、

最も危険なものだった。

Rewriteは歩き出す。

止めるものはいない。

止められるものもいない。

世界はまだ、壊れていない。

だが——

壊せる者が、すでに存在している。