STORY RECORD 05

第五話

観測される前の存在

第五話 観測される前の存在

幻想域の各所で、同時に観測されていた。

増え続ける断片。

記録に属さず、どこにも繋がらない存在。

それが、複数。

だが、それはもう——

“同じもの”ではなかった。

譜守ユラは、静かに目を開く。

「……ひとつじゃない」

視界の先。

断片が、互いに“触れている”。

静譜は反応しない。

維持されるべき対象として、認識されていない。

それなのに。

「……残っている」

消えずに、そこにある。

ひとつの断片が、

別の断片に重なる。

音もなく。

抵抗もなく。

ただ、重なり——

増えた。

ユラの呼吸が、わずかに乱れる。

「……増えている」

存在を支えるものがないまま、

存在だけが増えていく。

「そんなの……ありえない」

幻想域の外縁。

綴目アオは、足を止める。

手の中の断片を見つめる。

「さっきまで、ひとつだったのに」

それは、いつの間にか二つに増えていた。

記録は増えない。

それが、この世界の前提だった。

「……でも、増えてる」

そのとき。

視界の端で、別の断片が“動いた”。

風ではない。

流れでもない。

それは、自分の意思のように、

わずかに位置を変える。

「観測してないのに……」

アオの手の中の断片も、微かに揺れる。

同じ形。

同じはずなのに——

「……違う」

完全には一致しない。

レイは、少し離れた場所でそれを見ていた。

干渉しない。

ただ、観測する。

ひとつの断片が、

別の断片に触れる。

その瞬間。

増えた。

アオの手の中の断片も、震える。

ひとつだったそれが、

また、分かれる。

沈黙。

「……増えてるんじゃない」

レイが、静かに言う。

「最初から、“決まってなかった”んだ」

アオは振り返る。

「……決まって、ない?」

「観測されてないだけで」

「数も、形も、存在も」

「まだ、確定してない」

その瞬間。

空間の奥で、

まだ現れていない“何か”の気配が揺れる。

レイの視線は、そこに向けられていた。

「いま見えてるのは——」

「確定し始めた“前段階”だ」

同時刻。

ユラは、ゆっくりと目を伏せる。

「……それ、もう断片じゃない」

静譜が反応しない理由。

維持されない理由。

「観測される前の、“存在”だ」

揺らぎは、ひとつではなかった。