STORY RECORD 10
第十話
更新
第十話 更新
幻想域 外縁。
新しく繋がれたそれは——
静かに、そこに立っていた。
まだ、わずかに揺れている。
「……あと少し」
アオが、ゆっくりと手を伸ばす。
触れる。
重ねる。
その瞬間。
揺れていた存在が、
はっきりと安定する。
空気が整う。
歪みが消える。
言葉が、途切れない。
「……わたしは」
一拍。
「ここに存在していた」
完全な文。
迷いのない声。
レイが、低く言う。
「……記録に近づいたな」
アオの瞳が揺れる。
「……できる」
「ちゃんと選べば——」
風が、ゆっくりと戻ってくる。
誰も動かない。
ただ、その存在だけがそこにある。
崩れない。
揺れない。
アオが、ゆっくりと近づく。
「……大丈夫?」
その存在は、顔を上げる。
「……わたしは」
「ここに、いた」
言葉は、乱れない。
「……ちゃんと」
「繋がってる……」
レイが低く言う。
「安定しているな」
だが、その声には警戒がある。
「……でも」
アオは小さく呟く。
「少しだけ、違う」
その存在は、続ける。
「ここに、いた」
「でも」
ほんのわずかに、間が空く。
「わたしは」
「わたしじゃない」
アオの呼吸が止まる。
「……それでも」
小さく言う。
「存在してる」
その瞬間。
空気が、わずかに揺れる。
レイの視線が動く。
「……動くぞ」
零乃の視線が動く。
その足先が、
“完成した存在”へ向けられる。
何も言わない。
ただ、一歩だけ踏み出す。
アオが反射的に前に出る。
「待って」
「これは——」
零乃は止まらない。
静かに、手を伸ばす。
アオが問う。
「何をするの?」
触れる。
——消える。
一瞬だった。
音もなく。
痕跡もなく。
そこにあったはずの存在は、
完全に消えた。
沈黙。
風だけが、遅れて戻る。
アオの目が、止まる。
「……」
視線は、消えた場所から動かない。
「……なんで」
「……なんで」
零乃が言う。
「完成していた」
「だから、終わらせた」
——その時。
空気が裂ける。
音が歪む。
世界が、わずかに揺れる。
レイの表情が変わる。
「……まずい」
外側が歪む。
そこから現れる。
白い髪。
揺れる瞳。
感情を抑えきれない存在。
「……今の」
「消したの?」
レイが答える。
「……ああ」
白い存在が言う。
「……いいところだったのに」
「ほとんど完成してた」
「あと少しで、安定したのに」
零乃が言う。
「不要だ」
白い存在の声が変わる。
「……違うよ」
一歩、近づく。
空間が歪む。
「必要なんだ」
「少しずつでいい」
「ちゃんと繋げば」
「もっと良くなる」
レイが言う。
「それは崩壊だ」
白い存在は言う。
「違うよ」
一拍。
「更新だ」
零乃の視線が動かない。
「それ以上は許容しない」
白い存在は、わずかに笑う。
その奥で——
アオは、まだ動かない。
幻想域のどこかで、
小さな歪みが生まれていた。