STORY RECORD 11
第十一話
選択
第十一話 選択
幻想域 外縁。
風が、戻っているはずなのに——
アオには、何も聞こえていなかった。
「……なんで」
声が、掠れる。
視線は、消えた場所から動かない。
「なんで……」
何もない。
さっきまで、
確かにそこにあったはずのもの。
繋いだ。
形にした。
存在していた。
それなのに——
「なんで……消えたの」
呼吸が乱れる。
手が震える。
「ちゃんと……できてたのに」
一歩、前に出る。
何もない場所に向かって。
「戻してよ」
小さな声。
届かない言葉。
「もう一回……」
その瞬間。
空気が、変わる。
わずかに。
確かに。
レイの視線が動く。
「……くるな」
白い存在の足取りが、
ゆっくりとアオへ向けられる。
だが——
アオは気づかない。
視線は、まだそこにある。
「……できる」
小さく呟く。
「もう一回、やれば……」
白い存在が、静かに近づく。
足音はない。
だが、距離だけが確実に縮まる。
レイが一歩前に出る。
「それ以上は——」
言葉が、途切れる。
白い存在は止まらない。
まるで、
そこに“障害”が存在しないかのように。
レイの表情が変わる。
「……干渉できない」
零乃が、わずかに動く。
その視線が鋭くなる。
だが——
動かない。
白い存在は、アオの目の前で止まる。
近い。
あまりにも近い。
「……なんで」
アオが、ようやく顔を上げる。
「なんで、消えたの」
白い存在は、アオに語る。
「……異常として判断されたから」
静かな声。
アオの瞳が揺れる。
「……異常?」
白い存在は、ゆっくりと手を上げる。
触れない距離で、止める。
「そう、異常」
その声は、穏やかだった。
「私も消されるまではいかないと思ってた」
一拍。
「まぁしょうがないね」
アオの呼吸が止まる。
「……あなたは何も思わないの?」
白い存在は、静かに言う。
「存在に対しては何も思わない」
空気が、わずかに歪む。
「でも必要なんだ」
レイが低く言う。
「なんで必要なんだ」
白い存在は振り向かない。
ただ、アオを見ている。
「あなたは、できるでしょ」
その言葉に、
アオの意識が、少しだけ引き戻される。
「……え?」
「選べる」
「繋げる」
「形にできる」
ゆっくりと、手を差し出す。
「だから——」
一拍。
「もう一回、やってみない?」
沈黙。
アオの指が、わずかに動く。
「……戻せる?」
小さな声。
白い存在は、迷わず言う。
「できるよ」
レイが言う。
「やめろ」
零乃の声が重なる。
「それ以上は、壊す」
アオの呼吸が荒くなる。
視線が、手と、何もない場所を行き来する。
「……でも」
「このままじゃ……」
言葉が途切れる。
白い存在は、ただ待っている。
手を差し出したまま。
アオは、ゆっくりと顔を上げる。
その瞳は——
揺れていた。
大きく。
はっきりと。
壊れかけたまま。