STORY RECORD 14
第十四話
触れるな
第十四話 触れるな
幻想域 外縁。
静寂が、残っていた。
風は戻っている。
だが——
どこか、歪んでいる。
アオは、その場に立ったまま動けなかった。
視線は、まだ空白を見ている。
「……」
言葉が出ない。
思考が、戻りきっていない。
レイが小さく息を吐く。
「……落ち着け」
だが、その声も届いているのか分からない。
その場には、
アオと、レイと——
謎の存在がいる。
それだけだ。
足りないはずの存在に、
誰も触れない。
違和感だけが、
静かにそこにある。
謎の存在が、静かに前へ出る。
白に近い銀髪が、
わずかに揺れる。
足音はほとんどない。
だが、確かに“そこにいる”。
アオの視線が、ようやく動く。
ゆっくりと。
焦点の合わないまま。
「……だれ」
小さな声。
謎の存在は、まっすぐに見る。
「譜守ユラ」
短い名乗り。
それだけ。
アオは反応しない。
ただ、言葉だけが残る。
レイが視線を向ける。
「……さっきのは」
ユラは答える。
「改変する側」
短い言葉。
「世界の定義に干渉する」
レイが低く言う。
「空間を書き換えていた」
ユラは小さく肯定する。
「人には触れない」
アオの瞳が、わずかに揺れる。
「……じゃあ」
声は弱い。
「どうして、あなたは」
言葉が途切れる。
ユラは少しだけ間を置く。
「私は——」
一拍。
「譜だから」
静かな言葉。
理解は、届かない。
アオはただ見ている。
レイが言う。
「存在そのものが固定されているのか」
ユラは否定しない。
「保持者は」
続ける。
「自身を譜として残す」
空気が、わずかに張る。
「だから、変えられない」
レイが呟く。
「……人物判定か」
ユラは答えない。
だが、沈黙が肯定する。
アオが、小さく呟く。
「……さっきのは」
思い出す。
消えた存在。
「戻せるの」
その問いに、
ユラは首を横に振る。
「戻らない」
一拍。
「別のものになる」
その言葉が、静かに落ちる。
アオの指が、わずかに震える。
レイが言う。
「繋げるな、ということか」
ユラは短く言う。
「繋ぐな」
断定。
迷いはない。
沈黙。
風が吹く。
歪みが、わずかに広がる。
ユラの視線が遠くを見る。
「……来る」
小さな声。
レイが反応する。
「どこだ」
ユラは答える。
「ここじゃない」
その言葉に、
空気が変わる。
「順番を変えた」
レイの表情が変わる。
「……狙いを移したか」
アオは理解できていない。
ただ、聞いている。
断片的に。
ユラが、静かに言う。
「止める」
その一言に、
わずかな重みがあった。
そして——
視線が、アオへ戻る。
「あなたは」
一拍。
「触れるな」
静かな警告。
アオは、答えない。
ただ、
まだ揺れていた。
完全には戻っていないまま。
幻想域のどこかで、
次の“改変”が始まっていた。