STORY RECORD 02

第二話

存在しない記録

第二話 存在しない記録

幻想域の揺らぎは、消えなかった。

むしろそれは、わずかに広がっている。

譜守ユラは、崩れた譜の前に立っていた。

「……この崩れ方は、記録の欠損じゃない」

それは、何かが失われた痕跡ではない。

最初から、そこに“存在していなかった”かのような歪み。

それでも、確かに何かがある。

「存在しているのに、支える記録がない……?」

あり得ない。

記録がなければ、存在は保てない。

それが、この世界の前提だった。

同じ頃。

綴目アオは、静かにその断片を見つめていた。

拾い上げたそれには、どこにも接続がない。

記録としての流れも、出どころも、痕跡すらも。

ただひとつ、そこにあるだけだった。

「……これは、どこから来たの?」

答えは、どこにもない。

Rewriteはそれを見て、わずかに眉を寄せる。

「修正対象の定義が存在しない」

書き換えるための基準がない。

つまりこれは、“正しくも、誤りでもない”。

「……干渉できない」

そして──

零乃は、それを見ていた。

「……やっぱり」

「これは、消せない」

消去とは、記録に触れること。

だがこれは、触れるための“記録そのもの”がない。

だから──

「誰にも消されない」

幻想域は、確かに揺れている。

それでも、まだ崩れてはいない。

だが。

「このまま増えれば──」

ユラの声が、かすかに沈む。

記録に支えられない存在が増えれば、世界は、支えを失う。

そのとき。

綴目アオの手の中の断片が、わずかに形を変えた。

そこに、言葉が浮かぶ。

「わたしは、ここにいた」

誰のものでもない記録。

それでも、確かに“存在している”。

「……誰が書いたの?」

これは、誰にも属さない記録。

そして──この世界にとって、最も危険な存在。

「……はじまってる」

零乃は、静かに呟いた。

「記録に依らない存在が」